「笑顔の向こう側に」

「はぁ、今日も疲れたなぁ」
私は自分の部屋に入るなりそうため息をつきながら、コンポの電源を入れた。
そのまま着替えもせずベットに倒れこむ。
程なくして部屋の中はドラムとベースの響かせる重低音に包まれる。お陰でさっきまで階下から聞こえていたヴァイオリンやピアノの音がかき消された。
「お姉ちゃんたら今まで音楽なんて聞いたことなかったのに・・・・・・」
妊娠もしてないのに胎教なんて、一体どういう風の吹き回しだろう?もしかして・・・・・・
「あはははっ、そんなことないよねぇ・・・・・・」
そう呟きながらベットの上をゴロゴロする。
・・・・・・誰も白河ことりさんがおうちでこんなことしてるなんて思わないんだろうな。
学園のどこにいても浴びせられる視線。
好意や、羨望や、嫉妬。様々な想いの織り込まれた、痛い程多くの視線。私をひとつの型に収まるように強要するような視線。
そこにはこんな、着替えもせずベットをのた打ち回る様な私を想像するものなどない。
・・・・・・この頃、私に浴びせられる視線が前よりもっと鋭いものになった?
どうやら男子たちの間では私が付属を卒業するまでに何人に告白されるかなんてことが話題になってるらしい。しかもそれを賭けの対象にしているみたいだ。
確かに当の本人であるはずの私ですら、ここしばらくの間に何人の人に呼び出されたり手紙をもらったりしたのか覚えていない。そのたび断わる方の身にもなって欲しいなと思う。
こっちの時間や都合は全く無視だし。ちゃんと応えないと訳の分からない噂が交錯し出す。この前は日曜日にきてくださいって言われて、聖歌隊の練習が長引いて遅刻してしまったらその人もう待ち合わせの場所にいなくて、「冷たい人だ」なんていわれちゃうし。みんな勝手過ぎるよ。
それにみんな私を“学園のアイドル”として見てる。まるで高嶺の花扱いで、玉砕覚悟みたいな雰囲気で私に告白してくる。本当に好きなのかどうかも窺う間もなく俯いてしまったり、走り去ってしまったり。だからどんな想いを持ってるのかなんて分からない。
きっと誰も本当の私なんか見えてないからなんだよね。
・・・・・・でも、本当の私って一体何?
いつから白河ことりって、人に表情を窺っていつでもニコニコ笑ってるだけの人間になっちゃったんだろう?

私に与えられた“ちから”。
人の表情から心まで読み取ってしまうことができてしまう。
臆病な私にとってはこの上なく素晴らしいことだ。お陰で私はいつでも相手の望むままの白河ことりでいられるんだから。
・・・・・・だから見失っちゃったんだ、本当の私。
私のことちゃんと見てくれる人なんて何人もいないもんね。ともちゃんとみっくんくらいかな。
でも私のことを一番心配してくれているからこそ、心配させたくなくて無理をしている時もある。
そこにもやっぱり本当の私っていないのかな?
・・・・・・本当に私のことを真っすぐ見つめてくれて、私のことを分かってくれる人なんているのかな?

・・・1人・・・・・・・いたかもしれない。

公園での不思議な再会・・・・・・

クリスマスの不思議な出会い・・・・・・

朝倉君・・・・・・
朝倉君は私のことを1人の女の子としてちゃんと見ていてくれた。
彼の表情からは全くそう言うものがないといえば嘘になるかもしれないけど、決して私をひとつの型に収めようと強要するようなものは感じられない。

何より彼の表情が物語っていたような気がする。
今まで誰も向けてくれはしなかった視線。
私を私として理解しようとしてくれる。
そこに何の前置きも、既成概念もないみたい。
そう、私は白河ことりであって他の何者でもない。
高嶺の花でも、学園のアイドルでもない私。
彼がそれを見つけてくれるのかな?
そんな私を私が彼の中に見出せるのかな?

・・・・・・朝倉君の側にいれば本当の私見つけられる。

・・・・・・彼なら本当の私を見つけ出してくれる。

全く根拠のない予感だけど確信に似たものを感じている私がいる。
本当の私を知りたいと願う、本当の私がそこにはいた。
朝倉君に惹かれ始めている私もそこにいた。


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